マンションに住んでみたい…

マンションに住みたいなと初めて思いましたのは、とある会社に新卒で就職した2年目のことでした。わたくしの就職した会社は衣料品の卸問屋で、業界では中堅と言われている上場企業で、わたくしはそこでルートセールスをすることになりました。もう恥ずかしいぐらい昔の話でございます。就職した1年目は会社の決まりで独身寮に入らされました。寮だからタダ同然だろうと思っておりましたら、給料の15%ぐらいを寮費で引かれてしまい驚きました。

マンションに住んだら、もちろん家賃が少し多くなるのですが、まあそれでも良いかなと最初は思っておりました。けれど、ルートセールスというのはお得意様回りなのですが、わたくしの担当したのは寮から500kmほど離れた地域でしたので、毎日部屋に帰ってくることは不可能でした。月曜日に出張に出かけて土曜日に帰ってくる生活です。ひと月のうちせいぜい1週間しか部屋にいないのに、給料の15%も寮費で引かれるなんて納得がいきませんでした。

マンションに住むという考えは、まだその頃は浮かびませんでした。会社は実家から近かったので、早く退寮して実家から通えば寮費のお金が浮く…… お金のない新入社員でしたからそう言う方向に考えが向かうのは無理からぬことです。それはわたくしだけでなく、強制的に寮に入らされている同期生みんなが思っていました。「来年新入社員が入って来たら出られるんだからな」。寮で同期生と顔を合わせたら、いつもこんな台詞が誰かの口から飛び出しておりました。

マンションの家賃はそのころどれくらいだったのでしょう。寮から出てどこかで部屋を借りるという考えはありませんでしたので、調べたこともありませんでした。なにしろ当時は今と違ってインターネットなどありませんでしたから、マンションの情報収集をするにしてもそう簡単にはできなかったのです。賃貸物件の情報誌はもう登場していましたから、探すとしたらその辺の情報が頼りというような時代でした。今は良い時代になったものだと思います。

マンションに住むという考えが浮かんだのは、会社の先輩の住んでいるマンションに遊びに行ったことがきっかけでした。そのマンションはそれほど大きくもなく綺麗でもありませんでしたが、「自分の城」と言う感じがして羨ましかったのを覚えています。いつかわたくしもマンションというものに住んでみたいなと思いました。これが就職2年目の春のことでございました。


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